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【レビュー】This is Hardcore / PULP(1998)

1998年に発売されたPULP(パルプ)のアルバム「This is Hardcore(ディスイズハードコア)」をレビューします。

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 This is Hardcore / PULP(1998)

PULPというとこのアルバムの前に出た「Different Class」が余りにも有名。

私も当時のブリットポップブームを象徴するような名盤だと思っています。ほとんどの曲がシングルカットできそうな名曲ぞろい。「DISCO2000」とか今でも大好きだ。

そしてその期待を受けて発表されたこの「This is Hardcore」は暗くて重苦しい雰囲気が支配するアルバムという印象。前作のような雰囲気を望んでいた人たちにはがっかりさせられるものでした。売上も乏しく人気は徐々に低迷していき、その後1枚のオリジナルアルバムを出しただけでPULPは一旦解散。

たしかに暗くて重い。特に前半部分が。1曲目の「The Fear」なんてアルバムのオープニング曲なのに幽霊が出てきそうなおどろおどろしいテルミンの音が入ってるし。

でもよく思い出してください。「Different Class」だってそんな明るいアルバムじゃなかったよ。明るくて軽快な曲はシングルカットされてヒットした「Common People」と「DISCO2000」ぐらいで、あとは湿っぽくてあやしげな曲が多かったじゃないか。みんなシングル曲しか聴いてないのにアルバムを評価してるんじゃないか?と、当時思ったものです。

そもそも「Common People」も「DISCO2000」も曲調は明るいけど歌詞は物悲しくて冷めている。DISCO2000なんて初恋の子に「2000年になったらあの噴水で再会しよう」って約束して、いざそのときが来てノリノリで行ったものの「もう結婚してました!」っていう曲。最後は「君の赤ちゃんを連れてきてもいいから会わない?」って。切な過ぎる…

それに加えてこのアルバムが発売された時期にブラーのデーモン・アルバーンが「ブリットポップは死んだ」なんて言ったもんだから余計にネガティブな印象がこのアルバムについちゃってる。実際、急速にブリットポップブームは去っちゃったし、私の中のブリットポップブームもこのアルバムをもって終了した感がある。PULPもこのアルバムの収録曲「Glory Days」で過ぎ去ろうとしている「栄光の日々」を歌っている。栄光のツケはまわってくると。

でもこのアルバムが暗いだけかというとそうは思いません。全体として今までより温かみのあるバンドサウンドで、苦しい中にも希望の光が見えてくるアルバムだと思います。

恐怖が充満していた前半から後半になるにつれだんだん緊張が緩んでいき「Glory Days」から「Day After the Revolution」の流れで一気に光が差し込みます。最後は希望を持ったまま心地よい余韻に浸れる。そんな構成。1曲目から最後まで通して聴けば実に素晴らしい、悲哀と喜びに満ちた人間臭いアルバム。

「This is Hardcore」の収録曲をピックアップ

5. Help the Aged

アルバムからの先行シングルとしてリリースされた曲。未だかつて「お年寄りをいたわろう」なんて歌ったロックミュージシャンがいたのだろうか?こんなことを歌っても「まあパルプなら、ジャービスならアリか」と思わせるのが凄いところ。

お年寄りを大切にすることを歌いながらもそこに漂うのは老いへの恐怖。私がこの曲をリアルタイムで聴いた20歳のころは何言ってんだかって感じでしたが、40歳を前にしてようやくその「恐怖」が理解できてきました。だから「お年寄りをいたわろう」って気持ちも分かる。しかし何故それを歌にした?

多分バラエティ番組の一部なんだろうけど「Help the Aged」をバックにラップバトルでマイケル騒動のことをいじられています。

そのマイケル騒動の模様はこちら。

神のように振舞うようになったマイケルにジャービスは思うところがあり、ステージに乱入してお尻ペンペン。もちろんあとでこっぴどく叱られました。

Like a Friend(bonus track)

この曲はボーナストラック扱いでアルバムのエディションや発売した国によって入ってたり入ってなかったりまちまちなんですが、ぜひとも聴いて欲しい名曲です。とりあえず私が買った日本盤には収録されていました。とっくに廃盤っぽいですが。

2枚組みのデラックスエディションには収録されているので今買うならこれですね。

アルバムの雰囲気とは合っているのですが、じゃあどこに入れるんだってなると入る隙が無いのでボーナストラックになったのかな?真相は分かりませんけど。

静かな曲調から始まって徐々に音数が増えていき最後にドーンと爆発する私の大好きなタイプの曲です。

「This is Hardcore」の総評

先に書いたとおり世間の評価はあまり良くないアルバムでした。大ヒットした前作からの期待が大きすぎたのでしょう。バンド自身もそこに悩んでいたからあの暗い雰囲気のアルバムが出来てしまったふしもあります。

でも前作「Different Class」があったからこそのこのアルバム。前作と続けて聴いて「2年の間に栄光や挫折、いろいろあったんだな」という理解を含めるとよりいっそう味わい深く聴けると思います。

当時のJ-POP系音楽雑誌、確かワッツインかなんかの年末特集でアーティストの個人的年間ベストを発表するようなコーナーがあり、当時人気の最高潮だったGLAYのTERUがこのアルバム「Help the Aged」をベストに挙げていたのを覚えています。「売れ線のアーティストやけどちゃんと分かっとるやんけ」なんて生意気な感想を持ったのも当時の思い出。

最近Pitchforkが発表した「ベスト・ブリットポップ・アルバム TOP50」には「Different Class」が堂々の一位、「This is Hardcore」がなんと7位に食い込んでますね。

なんだかんだいって実は評価の高いアルバムだったのか。